Carlosの喰いしごき調査委員会
マレ−シア 編
第2話「樹の幹からデザート」の巻

1.プリン
サゴプリン、ココナッツミルク味
 ペナン島でのある日、ビーチや海岸通りをぶらぶら散歩してホテルに戻ってきた。冷たい物でも飲もうとプールに面したレストランのテラス席に着いた。鮮やかな色のブーゲンビリアからの木漏れ日が風に揺れてなんとも気分がいい。卓上のメニューを覗いていると、ティータイムだったのでコーヒー、紅茶、ジュース、アイスクリームなど見慣れた文字(英語です)が見える。そんな中に「サゴのプリン、ココナッツミルク味」という見慣れない文字(英語です)を見つけた。「サゴ!」その文字見たとたん、私は小躍りして喜んでしまった。サゴを食べられただけでもマレーシアまで来た甲斐があるってものだ。
 運ばれてきたサゴプリンは、半透明の乳白色の粒々を、なにやらなまめかしい形の型に詰めて固めたもので、ココナッツミルクと黒蜜(椰子砂糖(注1)の蜜か?)のような甘いソースがかかっていた。ブルンと弾力のある食感で、中華料理のデザートに出てくるタピオカにも似た感じだった。

2.樹の幹からデザート
 「サゴ」とは日本ではまだ聞き慣れない食材であるが、マレーシアやインドネシア・パプアニューギニアあたりでは古くから食べられているデンプン質食材である。日本でも知られるようになったタピオカはキャッサバ(注2)のイモから精製されたデンプンであるが、サゴはサゴヤシ(注3)という椰子の木の幹に貯えられたデンプンを精製したものである。いわばサゴプリンは樹の幹からできたデザートなのである。
 穀物は種子・子実の貯蔵デンプンを食べる。根・塊茎の貯蔵デンプンを食べるのはイモである。こういった穀物・イモが世界の主食となるデンプン質のほとんどを占めているのは今更説明するまでもない。そんな中で、樹の幹に貯えられたデンプンを利用するという例は、サゴヤシぐらいだろう。
 サゴデンプンは切り倒されたサゴヤシの幹の髄の部分を削り取り、水を加えて絞り、濾してから、水でさらして沈殿させて採るとのことであるが、サゴヤシの木を栽培するには何ら手間が要らないため、イモや穀物より効率よくデンプンを手に入れることができる作物であるとも言われている。
 伝統的な食べ方としては、サゴデンプンを熱湯で溶いて葛湯のようにドロドロにしたものや、ビスケットのように焼いて食べる方法、葉っぱで包んでから加熱しチマキのようにして食べる方法など多種あるらしい(注4)。

3.メロンとサゴのハーモニー
ハニーデューメロンとサゴのデザート
 ペナン島滞在中に、もう一度、サゴを食べる機会があった。ペナン島滞在最後の夜に奮発して入ったシーフードレストランのデザートメニューにあった「ハニーデューメロンとサゴのデザート」である。
 今度のサゴは、前回食べたような粒々を固めたプリンではなく、一度固めたサゴを細かく崩したようなものだった。ハニーデューメロン果汁がたっぷり入った甘い蜜(スープ)のなかにクラッシュされたメロン果肉と共に入っており、フルフルとした食感が口当たりが良く、喉越しも良い。この日は(も)少々食べ過ぎたかなと思ってズボンのベルトを緩めていたが、メロンの爽やかな甘味と相まって、するすると食道を落ちていき、むしろ、胃がすっきりするようにさえ感じた。

5.有望低利用植物資源
 とても、この爽やかなデザートが木の幹、つまり丸太の中から作られるとは、初めて食べる人は思いも寄らないだろう。実はこのサゴヤシ、その生産性、生育環境等々の諸特性から有望な低利用植物資源とされている。すなわち、「あんまり知られていないけど、凄そうな(使えそうな)奴」と言うわけである。この植物だけの学会(注5)も作られ研究が進んでいるらしい。研究次第では将来の食糧危機と森林減少はサゴヤシで救えるかも知れない!かも?



注1 砂糖椰子: ヤシ科のサトウヤシ(Arenga pinnta)またはウチワヤシ(Borassus flabellifer)の雄花をから樹液を集めてそれを煮詰めて作る。また、この樹液を発酵させて酒や酢も作る。
注2 キャッサバ: トウダイグサ科の多年草。そのイモのデンプンを粒状にしたものがタピオカである。最近は「サゴ」として出回っている粒々(サゴパール)も実はキャッサバ製の物が多いらしい。我々が今回食べたのも本当にサゴヤシのサゴだったのだろうか?ちょっと心配。 
注3 サゴヤシ: ヤシ科、Metoxylon属の樹木。東南アジアからオセアニアにかけての熱帯地域で栽培利用される。  
注4 多種ある: サゴヤシや焼いたサゴデンプンの写真は三留理男著、講談社刊「シャッター切ってアジアを食す」に載っているので、興味のある人はどうぞ。
注5 学会: サゴヤシ学会

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