第9話 「またまたアチェケで嘘をつく」 (写真にマウスを当てますと簡単な説明が出てきます。) 本誌5月号掲載第5話「アチャケイで二度嘘をつく」では、今回の調査団(注1)参加中に、アチェケというクスクス状キャッサバ加工食品について嘘をついてしまったという話を懺悔の意を込めて書かせて頂いた。しかし、恥ずかしいことに、この第5話の中でもアチェケについて嘘をついてしまった(ちゃんと調べずに書いてしまった)ようだ((社)国際農林業協力協会小林裕三様ご指摘ありがとうございました)。今回、またまた懺悔の意を込めてアチェケについて再検証したいと思う。
まず、この食品の名前である。正しくは「アチャケイ」ではなく「アチャケ」または「アチェケ」と発音するらしい。これに従い本稿でも「アチェケ」と表記することとする。第5話でアチェケは「キャッサバを砕いて乾燥させ」たものであり、「少し酸味があるのは加工時にいくらか発酵しているためかもしれない」と書いた。文献(注2)によると、これについては概ね正しかったようであるが、その製造過程は決して簡単なものではないこともわかった。丸2日もかかるアチェケ作りの過程を以下に説明する。まず、皮を剥き5cm角に切ったキャッサバを水に晒す。水に晒すことにより芋を洗浄すると共に、毒性成分(シアン化合物)をある程度抜くのだそうだ。次に粉砕機を使って砕くのであるが、以前は大型のおろし金で、さらにもっと前は臼と杵で搗いて砕いていたそうである。粉砕する前にあらかじめ発酵させておいたキャッサバ、いわば種菌を混ぜ込んでおき、粉砕後に一晩寝かせて発酵させるという過程が加わる。やはりあの独特の酸味はこの発酵から来るもののようだ。さらに前回、発酵をさせるのは毒抜きのためではないかと示唆したところであるが、やはりその効果もあるようだ。粉砕・発酵させたキャッサバは水分が搾られた後、粒を滑らかにする作業がなされる。この作業はアチェケ作りの中で最も技能を必要とする作業であり、木鉢の中で転がしながら一粒一粒を滑らかに丸めるのだそうだ。このあと自然乾燥、篩いがけ、風選をしたものを蒸して調理される。前回、その調理法を「ボイル」と書いたが、これも誤りでアチェケは蒸して調理されるのだ。今回、市場で乾燥してビニール袋にパックされたアチェケを見かけたが、これは最後の乾燥段階のものか、蒸されてから再度乾燥したものを袋詰めした製品であろう。 さて、このアチェケの食べ方について「煮込み料理をかけて食べる」と書いたが、現地では煮込み料理とアチェケを一緒に食べるときは、上にかけて食べるのではなく、日本のご飯と味噌汁のように交互に食べるのが普通のようだ。また、タマネギ、トウガラシ、塩、油などを和えた薬味がアチェケにつきもののようで、それに揚げた魚や焼いた魚・鶏などのおかずを添えて食べるとのことだ。
それから、さらに、もう一つ。4月号掲載第4話「路傍のリ・ソース」において「西アフリカのこの辺りは米作地帯であり―中略―アフリカ稲と呼ばれる別種の稲も栽培されている。」と書いたが、筆者は今回の調査でコートジボアール国内でのアフリカ稲の栽培は確認しておらず、市場での聞き取り調査でも存在を確認できなかった。筆者の未熟な文章により「コートジボアールではアフリカ稲の栽培がされている」ともとれる表現になってしまっていた((独)国際農林水産業研究センター坂上潤一様ご指摘ありがとうございました)。今回は調査不足ではあったが、再度、現地に出向かい、アフリカ稲やキャッサバを初めとした農産物の栽培・利用などの調査をやってみたいと思いを馳せつつ、以上、訂正とお詫びを申し上げる。 注1:途上国を対象とした実情調査(1998年、日本財団が組織・派遣) 注2:茨木透(1996)コートジボアールのアチェケ.アジア経済37巻6号59−78. 茨木透(1993)コートジボアールのアチェケづくり.アフリカレポート16号33−36. 1 食の科学(2003年8月号)掲載分 Carlosの喰いしごき調査委員会 |