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レポNo.1 奈良「片上醤油」さんに行く!
visited day 2004.9.18

片上醤油さんの外見「犬じゃない!」
 中秋の名月(2004年は9/28)も後10日程だと言うのに、とても暑い日が続いています。なんでも東京の真夏日が68日を超え記録を更新したとか・・・・。「いい加減にしろよ!」と天に苦情を吹っかけている間にどういう訳か、私、奈良に居ました。いやぁ、のぞみは速いですね。

 さて何故奈良に行ったのかと申しますと、もちろん奈良と言ったらこれを見なくちゃという使命感が漂います。そのような使命感をあっさりと右クリック・削除で消してしまい、お気に入りに入れてある片上醤油さんをダブルクリックしたのでありました。

 田んぼや畑の畦道を脇目に小高い山の麓に有る、古めかしく連なる屋根の下から醤油の香りが漂ってきました。「わん!」ととと、そうじゃない違うぞ。私は犬じゃないのです。が、思わず口からそう発しそうになる位、それは豊満で心地良いものでした。

蔵の中「醤油造りは樽に聞く」
 片上裕之社長とは以前お電話で、幾度となくお話しを交わした事が有りますがお会いしたのはこの時が初めてす。男同士で気持ち悪い奴らだな、と思われるかも知れませんが、お電話入れますと受話器を一時間は置く事が出来ない間柄です。「ものをつくる人」という共通点から職人同士、いや同志かな?一度話に火がつくと燃え上がる一方でして、それを消すのには、かみさんの「あんたいい加減にしなさいよ!」との、消化器的な怒鳴り声が必要なほどなのです。

 片上醤油さんでは木の樽桶を使用しております。その十数個の樽、ひと樽ごとに個性というか性格が違うそうでして、仕上がり具合ももちろん違ってくるそうなのです。それを聞いた時に私は「このおやじなにやら妖しい事を言う人だな。」と心の中でつぶやいてしまいました。が、次の瞬間、忘れていた過去の話を思い出し私の妖しい心の発言を取り消さざるを得なくなりました。

  浅草並木藪蕎麦の修行時代に、ヤ○サの常務さんだったかな?からこのようなお話をお聞きしたことがあります。
私「お醤油の【特選】という銘柄はなにか特別に仕込むのですか?」
常務「いや、そういう訳ではなくて同じように仕込んだ中から良い出来具合のものを【特選】とします。発酵というものは偶然という作用も関わってくるのです。」
もちろんヤ○サさんは大手ですので木の樽桶は使っていないでしょうが、それでいても違いが出てくるものだと考えると、「妖しいおやじ発言」は不用意だったと自分の薄くなった頭をなで、反省を促しました。

 片上社長がおっしゃるには、「木の樽桶には長年使用した事により麹菌、乳酸菌が住み付いていて、もろみをいれてやれば勝手に樽が美味しい醤油を造ってくれるんです。後はたまに人間がかき混ぜてあげるだけですから。」とケラケラと笑いながら私に伝えました。もちろん謙遜で有る事は直ぐに分かります。同じもの造りの職人ですから。あえて客側である私にその苦労話などを伝える訳は有りません。「私の苦労はこの醤油を味わって(お客様に)分かってもらいたい。」真剣に仕事に相向かっている人であればきっとそう考えるはずです。そして、きっとこの人は、この長年使用している木の樽桶に醤油造りを教えて貰っっているのだろうと、蔵が私にそっと囁きかけたかのように伝わってきました。 その囁きともろみの芳しき香りに酔いながら、感慨深げに私は窓の外の彼岸花にそっと眼を移したのでありました。

タマホマレのもろみ「お気に入り」
 もろみの香りに酔い、彼岸花に浮かれている私に目を覚ませ!と、言うかのように片上社長は、こう私に話しかけてきました。
「あるじさん、私のとっておきのお気に入りをお見せしますよ!」
「んん、なんだ、お気に入りのアダルトHPか・・・?」と、下衆な発想しか出来ない私に、「あんたもこの樽桶に人生を教えて貰え!」というようなショックでもあり、そして待ちに待ったその瞬間の言葉を彼は発しました。
「私のお気に入りの樽にタマホマレのもろみが暮らしているのですよ。こちらです。」
階段を降り別の蔵に案内されました。その蔵に上がる木製の階段は長年に渡り麹菌やら乳酸菌が染み込んでいるらしく?とても滑りやすい、美味しそうな階段でした。

 その美味しそうな階段を上がり目にしたのは、先ほ見た樽桶よりも数段古そうなもの達でした。
「内緒の話なんですが、この3つの樽が私のお気に入りの樽でしてこの樽には北海道の青大豆、そして昨年埼玉屋さんから分けて頂いた滋賀県産のタマホマレが入っているんですよ。この樽に入ったもろみは私の思ったような発酵を手伝ってくれてとても美味しい醤油になるんです!」
そう、それは私にとって待ちに待った瞬間、まるで人生で最も深く恋をした人に再会した時に味わえるであろう感動、胸がバ−ストしてしまい正常な状態ではない、きっと今風の若者言葉なら「ありえない〜」と言った所でしょうか。

 有り得ないような感動を抑えつつタマホマレの樽を見入っていました。んん、と感ずる所、タマホマレのもろみの色は他のものよりも薄く目に映ったので、その点を片上社長にお聞きしました。
「どうもこの大豆は他のものと比べ特殊なようです。始めの仕込みの段階からいつも以上に私にも気合が入り、それが相手(大豆)にも伝わり、醤油として確実に美味しくなる予感がします。このもろみは色は薄いですが、深みがありますよね。見て何か感じてきませんか?」
「まったくこのおやじは、俺の十八番(おはこ)を取るつもりかよ〜!」とも思いつつ、悔しくもそっと小さな声でポツリとひと言私はつぶやきました。
「気合」

片上社長とお子さん「ではまた」
 私の個人的な事なのですが、人として素晴らしく感じた人には決して別れる(去る)際に「さようなら」とは言いません。「ではまたお会い致しましょう。」慣れ親しんだ人には「じゃまた。」という言葉を使います。この人とは必ずまたいづれお会いできる。そしてそれを叶えなければいけないという私なりの使命感を持ちたいからです。丁重に片上社長、ご家族の方にお礼を申し上げ「ではまたお会い致しましょう。」と告げ、芳しい醤油の香りを惜しみつつ奈良を離れました。

 尚、タマホマレの醤油は完全な熟成を待ち、仕上げるそうでして、おおよその予想ですが、完成は本年(2004年)末から来年(2005年)明けてからという事です。皆様気合を入れて楽しみにお待ちくださいませね!

※参考ホ-ムペ-ジ 
片上醤油  ◇こちらもどうぞ♪

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