研究日 2003年2月8日 web公開 2003年3月
花王マグネスファイン

 足立区に有る泰喜物産株式会社の和田さんという方から
「是非一度埼玉屋さんの豆乳を使って花王マグネスファインというにがりで豆腐を作ってみたいのですが・・・」
と、問い合わせが有りました。聞く所によると、このにがりは高温での作業が出来るので、キメ細かで弾力性に富んだプリンプリンの絹豆腐や、今までにはみられないソフトな木綿豆腐をつくることができるそうな・・・。ふ〜ん、でも自分には絶対必要ないだろうし(にがり寄せは機械でやってしまっては楽しくなくなってしまう)今忙しいからメンドクサイ事やりたくないな、とも思いつつ、どうしてもという和田さんの熱意に負けました。あるじ〜、人が良すぎるよ、また少ない休みの時間を減らすきかい?>自分。 まあいいよ、一生懸命な人って好きだから今回は特別よ。
 そんなこんなで当日の朝、五時から始めるのでそれまでにという約束だったのだが、和田氏は来ない・・・。しょうがねえなあ、まったく。 五時十五分ごろ電話が入り「寝坊しました、これから直ぐに伺います。すみません。」との事・・・。普通だったら「もう来なくていいよ」と怒ってしまうのだが、彼、人が良いから許してやろう、と思う自分。にがり豆腐くらい甘いかな〜?
でもね皆さん、特にこういう時の約束時間は絶対に守りましょうね!

前置きはこれ位にしてさあ、始めましょう!
和田氏とマグネスファインというにがりで寄せあげる為に使う機械。なにやらこのにがりは植物性油脂(グリセリン脂肪酸エステル使用も有る)などでコ−ティングされているようです。それを攪拌中に徐々に剥がす事によって豆乳のゲル化を遅らせる。その為に高温での作業が可能に成ったとの事です。グルコノラクトンを水に溶かすと徐々にグルコン酸に変化する。その為に均一に攪拌後、徐々にゲル化が始まり固まってくる。というのに似ているのかな?

※凝固剤には遅効性のものと速効性のものとがあり、一般的ににがりは速効性の凝固剤、グルコノラクトン・硫酸化カルシウムなどは遅効性の凝固剤とされている。

この機械はただ今開発中のもので、小ロットの豆腐屋さん向けのものです。豆腐への表示が塩化マグネシウム(にがり)と表示でき、豆乳温度、その量、凝固剤の量、攪拌回転数(スピ−ド)、攪拌時間を合わせてやれば素人でも、難しいとされるにがり寄せが安易に出来るとの事です(しかも高温寄せ)。果たしてそれが豆腐屋(豆腐職人)にとって良い事か否かは分かりませんが・・・
写真にマウスをあてますと簡単な説明がでてきます。
マグネスファインです。 マグネスファインを豆乳いや、投入!そして攪拌
←触ってみた感じがやや荒れ気味か?と思った。「絶対に荒れることの無いにがり。」と聞いていたのだが豆乳温度82度&低蛋白質大豆タマホマレの組み合わせのせいだろうか?荒れてないことを願った・・・
予想通りやや荒れ・・・
むむ、残念。。。。
今度はMK箱で挑戦




ばっちし良い感触。しかもかなり固い。
寄せ温度を77度位だったかな、攪拌回数などのセッチングの修正でばっちりな物が出来上がる。しかもかなり固い。その固さを表現するならば当店のグルコン酸100%使用の豆腐よりややだが柔らかめ。もっというとエンレイ大豆をbrix15度でにがりは固形(フレ−ク状)で寄せ温度75度のにがり絹よりやや固め。まあ固ければ良いってもんじゃあないけれど、こいつは調理にも向いてるんじゃあないかと思った。
丁度生揚げを揚げていたので、マグネスファイン使用の絹豆腐を水切りせずに揚げてみた。こいつは美味かったね〜。
水切りさえすれば完璧なにがり使用の絹生揚げが出来ると思った。だけどこれで本当にいいのかな・・・
上記使用の説明
※豆乳は通常の埼玉屋タマホマレbrix15度のもの
※にがりは花王マグネスファイン
実験を終えて感想

 なんていうかこういう物が出来てしまう(表示が塩化マグネシウム(にがり))と、うまいまずいは別にしてにがり100%手寄せで真剣に豆腐を造っている職人の方々に対してちょっとなあ・・、と思う。
自分はにがりでもグルコン酸でもどんな凝固剤においても、豆腐が美味しく感じればそれで良いと考えている。あえてにがり100%の豆腐だけが美味しい訳では無いと思うしね。

 そしてそれを証明するべく当店の、気合豆腐「塩田」(塩田にがり液体100%使用)と、気合豆腐「絹ごし」(グルコン酸100%使用)と、そして今回のマグネスファインの絹豆腐を和田さんと共に食べ比べてみる事にした。いわゆる三種類の凝固剤から出来る絹豆腐味比べで有る。食感、固さこそそれぞれ特徴が有ったものの、食べ比べている内にどれも同じ味同じ美味しさに思えてきました。和田さんもこれは同じ意見で終いには、「なんだかどれがどれだか分からなくなってきた。」と言う感想でした。ただ、わずかばかりですが私個人としての好みで「塩田」が食感も含め美味しく感じましたが。でもほんの少しです。

 この観点から豆腐の美味しさというのは凝固剤の種類からくる物ではなく、その時期に旬となる大豆を選び美味しい豆乳に炊き上げる事が一番重要なのではないかと思います。もちろんにがり手寄せに関しては難しい技術を養わなければ美味しい豆腐には成りませんし、豆腐は冷奴で食するだけではなく、調理にも向く物(凝固剤の特性からから成る固めに仕上がる豆腐)が絶対に必要と考えます。それについて、職人が自ら凝固剤を配合する事の方が良いと思います。(メ−カ−の配合剤ではなくやはり個々のお店で配合を決めるのが個性が出てベストではないかと考えます。)

 しかしながら、気合の入ったにがり100%の絹豆腐の手寄せ技術を習得しない限り、豆腐造りの奥深さが分からないでしょうし、本当の意味で「豆腐を語る」事もきっと出来ないのではないか?と思います。更に上に書いた事の意味もきっと理解して戴けない事でしょう。私も山下師匠の豆腐に感動し、この辺の意味合いを理解しつつあります。

◆和田氏の感想等(メ−ルで頂きました。ちなみに私は荒井ではなく新井なのよ〜(笑))

前  略
先日はお忙しいところ、大変お世話になりました。
手間をお掛けして詰めて頂いた豆腐は私が普段、仕事で作った試作品
を評価してもらっている人達(今回は西尾久・自由が丘の方々が中心)
に配りました。
豆の味、香りが良いとこれ迄にない意見が多く集まり、改めて御社の
豆乳は凄いんだと驚かされました。(特にざる豆腐!)
 
埼玉屋豆腐店には100%グルコン豆腐があるということで、昨年秋に
初めて伺った訳ですが、更に塩田にがり液体をタマホマレに使うとどうか
(笹箱&ワンツーで出来れば他の豆腐屋さんにも勧め易い)とか、
マグネスファインで寄せたタマホマレを新井さんに見て頂きたい(こだわり豆腐
職人VS乳化にがりデモパイロット タマホマレ対決)などとスケベ根性を出し、
お邪魔した次第です。
 
実際に荒井さんが当日分として笹箱でグルコンと塩田にがり(液体)
で寄せる後姿やその際の話で豆腐へのこだわりを知り、「あーここは自分が考えている
豆腐とは次元の違う豆腐を追い求めている」ことをひしひしと考えさせられ、「多分
玉誉れで寄せられても新井さんの求める豆腐には程遠い」と私の作る番になった時は
プレッシャーでガチガチでした。
これ迄、日本各地100ヶ所以上の製造現場に初めて行って直ぐに一発で
出来たことに自惚れており、「大豆の性格と温度・ブリックスが解れば豆腐は簡単!
・煮豆には最高だが豆腐には難しい大豆でもマグネスなら大丈夫」などと考えていた
自分が恥ずかしいです。
安易に大豆の甘味を引き出す為に苦くなる直前迄にがりを入れる(所謂バイヤー受け
する豆腐)のではなく、その大豆の味、甘味、風味を損なわずに最大限引き出す為の
温度・濃度・浸け豆時間・煮方を邪魔しない最適な凝固剤量というピンポイントを
狙って毎日作り続ける・・・   だからタマホマレなんですね。
 
現在のお豆腐屋さんが若かった頃、あるいは先代の頃、グルコンにはお世話になった筈です。
簡単に出来過ぎるからとか使用法を間違えて酸っぱくしたからと否定して配合剤に変えた
方やすまし粉に移行したままの方もいらっしゃいます。缶ニガリだけで地元で評判の店
もあります。塩田のフレークですら硫カルを足さないと・・・ という方もいらっしゃるそうです。
本日、残念ながら弊社取引先の大手豆腐屋が倒産しました。
この様な状況下において当社は豆腐業界でお客様のお役に立つことで生き残りたいと
考えます。その際に埼玉屋さんの様に豆腐を製造するのみならず、一般の方々に情報を
発信・交流出来る所には積極的にお付き合いさせていただきます。
今回は本当にありがとうございました。次回も宜しくお願い致します。
 
 
                         泰喜物産株式会社    和田 高(たかし)
参考ペ−ジ 花王マグネスファイン
機械等についてのお問い合わせ 泰喜物産株式会社
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