History of Kiaitofu

 埼玉屋の三代目店主は、18~23歳までの5年間、東京は浅草「並木藪蕎麦」で蕎麦道を極めるべく修行を積み重ねておりました。昭和61年並木藪蕎麦の先代である故堀田平七郎氏に暖簾分けを約束して頂くも、同時期に埼玉屋創業者である祖父新井幸蔵が他界しました。その直前に祖父は埼玉屋を継承して欲しいという意思を私に伝え帰らぬ人に。。。自分の意志と祖父の意思を量りに掛ける術もなく情に従い家業に入り豆腐道を貫く事を心に決めました。(父は昭和53年に他界)  店を引き継ぎ、やがて不景気という波が当店にも押し寄せ経営が困難に陥りました。いいえ、それは不景気という事は言い訳にも成りませんし、近くに大型ス-パ-などが増えた事も言い訳に成りません。全ては私の努力不足だと気がついた時、心の中にひと筋の明かりが見え始めました。努力が足りないのであればそれを増やせば良いだけ。決して豆腐屋として才能が無い訳ではないのだから。  そして努力を積み重ねている時に出会ったのが国産大豆品種のひとつ「玉誉れ」でした。この大豆は「京都の豆腐職人が固まり難いとさじを投げた」と言われるほど豆腐と成し辛い大豆なのですが、いざ上手に豆腐と成すと甘さ味に大変富んだとても美味しい豆腐と成ります。この大豆で豆腐を造る、そう決めた時から新たなるスピィリッツが私の中に目覚めたのです。試行錯誤、切磋琢磨する間に私はこの大豆品種から「気合」と言うものを学び、それを授かり始めました。それから数年後、玉誉れの声が聞こえ始め、納得のいく豆腐が出来はじめた時に彼がそっと私に語りかけました。「君の豆腐を気合豆腐と名付けなさい。」と。
       気合豆腐 埼玉屋本店 店主&WEBMASTER 新井 弘幸

玉誉れ(タマホマレ)という大豆品種について

【日本の豆腐は日本の大豆から】
 我が国の食文化に深く浸透している「豆腐」、だからこそその原料は日本の大豆にこだわりたいと私たちは考えます。大豆生産者の方々が有ってこその「豆腐」。微力では有りますが私たちは日本の大豆生産農家を応援いたします。

☆タマホマレアラカルト☆

【京都の豆腐職人がさじを投げた】
 とある産地の方から伺った実話をお話し致します。その産地は京都のお膝元なのですが、京都の豆腐屋さんに玉誉れを売り込もうとサンプルを送付して作っていただいたそうです。そしてお試しになって返ってきた感想が「この大豆はやっこく成りすぎて(柔らかく成りすぎて)よう固まらんわぁ~(上手に固まらない)」(注1)という事でした。最も気合大豆と呼ばれるからには、この大豆は「気合」の入った豆腐職人ではないと、安定して美味しくは成らない非常に難しい大豆だと私は考えております。
(注1)大豆には蛋白質含有量が高いものから低いものが有り、一般的には高いもの(エンレイやフクユタカ)が豆腐造りには向いていると言われております。ですが、大豆は元々蛋白質含有量が他の穀物より高い穀物(あずきなども蛋白質を含んでおりますが豆腐(にがり100%絹豆腐)には成りません。)で有り、どの品種においても「気合」さえあれば豆腐ができる(にがり100%絹豆腐)と思います。

【味と甘み香りに優れた素晴らしい大豆】
 先述した通り、玉誉れは大豆の中では蛋白質含有量の低い大豆ですが造り難い代わりに、味と甘みと香りに優れた大豆品種であります。そして農家の方々にも他の品種と比べ、育てやすく、多収である為、喜ばれているようです。ですがこのような話をJAおうみ富士の方からお聞きしました。(2004.9.18)
「うちの農協も3、4年前は大豆はタマホマレオンリ-でしたが需要が少なくなり、フクユタカや大鶴(共に高蛋白質系大豆)を植えつけるように成りました。今ではタマホマレは全体の20%ほどの作付けです。今回契約栽培をお申し込み頂けなければもう少し作付けが減っていたと思います。」
どうやら玉誉れは、やがて消え行く大豆品種のようであります。このように素晴らしい大豆を無くしてしまうのは、大豆業界の恥ではないのかと思いますが。
(実はもうひとつマイナスの要素が有ります。大豆が収穫後から一年近く経過しますと、豆腐の色がやや少し赤みに傾いてくるようです。これも豆腐屋に嫌われる原因のひとつかも知れませんが美味しさには変わりがありません。)

【タマホマレまる秘伝説】
「日本とアメリカのハ-フ」
 タマホマレは昭和38年長野県農業試験場桔梗ケ原分場で、Leeを母として、東山7号(フジミシロ)を父として人工交配され生まれたと聞いております。ちなみにLeeさんは米国人のお豆さんだそうです。以前小耳にはさんだ内緒の話なんですが、試験場の人が当初フジミシロさんに日本のお嬢さん大豆と結婚させようと企てていたのですが間違って隣にいた外国のお嬢さん(Lee)を紹介しちゃったそうなのです。そして生まれたのが「タマホマレ」です。間違って出来てしまった子供なのですが蛋白質含有量以外はとても優秀な子供でして日本で広く栽培され、一時は国内全収穫量ベスト3に、長年入っていた大豆です。