本誌読者の皆様方、初めまして。
 ひょんな事から連載執筆を依頼されましたが、なにぶん本職は豆腐職人の為、お粗末で読み苦しい文章を垂れ流すことと相成りますがお許し下さい。宜しくお願い致します。
 

 「第一章 タマホマレとの出会い」

 まず、私が己の豆腐を語るのにはタマホマレという国産大豆品種との出会いをはずす事は出来ません。そして、そのタマホマレがどういう大豆品種なのかも皆様に知って頂きたいと思います。

 このタマホマレとの出会いのきっかけは「日本一の大豆リンク集」(http://www.bea.hi-ho.ne.jp/ashir/link2.html)というホームページにあります。以前からこのホームページの掲示板で情報交換をさせてもらっておりました。ある日、そのホームページのオフ会の席で、ある大豆関係者が大豆の資料を指差して「埼玉屋さん、こういう大豆で豆腐を作ると甘くて味の有る豆腐が作れますよ。大豆の値段も下町の豆腐屋さんの範囲です。」と私に言ったのです。その指差した先には「タマホマレ」の名前があったわけです。それを聞いたそのホームページ主催者が切返して言うには「今、埼玉屋さんが使っているのはエンレイ(高蛋白質大豆)ですよ、普通豆腐づくりには使わないタマホマレ(低蛋白質大豆)を使うとなると、天と地くらい豆腐の造り方が違ってくるのではないかしら」。


この言葉が私の耳の奥まで入り込み、脳の片隅で眠りかけていた職人の魂を揺さぶり始めたのは言うまでもありません。その揺れが次第に大きく成っていって、わくわくした鼓動が隣人に聞こえてしまうのではないか?と心配した程です。
 その日の帰り道で、ふと並木藪蕎麦で修行に励んでいた頃の事を思い出しました。あの頃も様々な種類の蕎麦粉を打たせてもらったものです。蕎麦の品種・種類によって随分手応えが違っていたことも思い出しました。あのときの経験が必ず今回の豆腐造りにも生かせるはず。職人としての新たなる目標を得た私の足取りは軽く、頭の中がまだ見ぬタマホマレで一杯になっていました。
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葛飾 手造り豆腐埼玉屋本店 店主 新井 弘幸
浅草「並木藪蕎麦」で五年間修行後、祖父の遺言で在る意志を引き継ぎ家業(豆腐屋)に入り現在に至る。 
光琳社 食の科学 2002年3月号に掲載分