Carlosの喰いしごき調査委員会
マレ−シア 編
第3話「天然記念物の味」の巻

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1.まるで水族館
水族館のような店内.
 マレーシア・ペナン島に滞在中、屋台や小さな食堂でばかり食事をしていたので、最後の夜は奮発して豪華なディナーを食べようということになり、ビーチに面したシーフードレストランにやってきた。少々趣味が悪いかな、と思うくらいハデなお店にはいると、入り口から席までつながる回廊に大きな水槽が大量に並べられているのが目に入った。大きなハタ等の魚類、エビ、カニなどの甲殻類が生きたまま水槽の中で泳いでいる。その風景は水族館さながらであった。
 お店には紙に印刷された普通のメニューも有るのだが、これら水槽で飼われている(?)魚介類を自分で選び、好みの調理法を指定して出してもらうこともできる。我々も普通のメニューからは「海鮮汁ビーフン」と「カンクン炒め」(注1)といったアッサリした料理だけをオーダーし、あとは水族館から選ぶ事にした。

2.大シャコ
水槽の中の大シャコ
 ずらりと並んだ水槽の中の一つに「大蝦甫」と漢字で、「PROWNMANTIS」と英語で表示された水槽があり、中を見ると30cmぐらいの大きなエビがウヨウヨと泳いでいた。ところが、よく見ると、この大きなエビの様に見えた甲殻類はエビではなくシャコのようだ。我々が普段見慣れた寿司ネタのシャコに比べたら格段にでかい。英語表記の「PROWNMANTIS」は直訳すると「カマキリエビ」になる。確かにシャコの腕はカマキリのようになっている。以前にテレビ番組(注2)で見たが、熱帯産のシャコが持つこのカマキリの様な腕は餌である貝の殻を割って中身を喰うためにあり、水槽ぐらいの厚さのガラスなら割ってしまうほどのパンチ力を持っているそうだ。 
 水槽をながめる我々には流暢な英語を話す中国系のオバサンがピッタリ付いてオーダーを取っていた。このオバサンによると大シャコのお薦めの調理法はカラアゲなのだそうだ。早速、一尾をカラアゲにしてもらうことにした。

3.ニシキエビ
ニシキエビ
 ニシキエビ(注3)という大型のエビはそのシルエットは伊勢エビと全く同じなのだが、その色は伊勢エビよりハデで、いかにも熱帯っぽい。もちろん、熱帯まっただ中にあるペナン島のこのお店にもニシキエビは並べられていた。とはいうもののこのお店のエメラルドグリーンっぽい体色のニシキエビは図鑑や(本当の)水族館でこれまでに見たニシキエビよりかは、やや地味目だった。伊勢エビより味は格段に落ち、大味であるとされるニシキエビであるが、まあ、熱帯ならではのエビであるということで料理してもらうことにした。味付けはスパイシーな四川風ということでお願いした。


4.黒く蠢くもの
水槽から持ち上げたカブトガニ.
 大きなハタの類やサメなど、色々な種類の魚も水槽で泳いでいた。どんな味か試してみたかったが、ハタなどはとても二人で食べきれる大きさではない。なにか適当な大きさのものはないか...と探していると、ある水槽のなかで黒く蠢くものを見つけてしまった。鉄兜を上からつぶしたような円盤形の胴体から鉄串のような尾が長くのびている独特の体型(注4)は紛れもなくカブトガニ(注5)である。日本では瀬戸内海(岡山)のカブトガニ繁殖地が天然記念物となっていて、食べることはおろか、勝手に捕まえてもいけないはずだ。マレーシアでは捕って喰うほどいるのか?(注6
 メモを取りながら我々に付いてきてくれている店のオバチャンに旨いのかどうか聞いてみた「悪くはない」と中途半端な答えだ。お薦めの調理法はバーベキューなのだそうだ。目の前の珍品を見逃すわけにはいかないのでカブトガニBBQもオーダーリストに加えてもらった。

5.注目の的
大シャコのカラアゲ ニシキエビの四川風ピリ辛ソース炒め
カンクンの炒め物 海鮮汁ビーフン
 水族館見物を終えてテーブルでカクテルなんぞ飲みながらお料理が出てくるのを待っていたら、カラアゲにされた大シャコ、ピリ辛ソースで炒められたニシキエビ、カンクンの炒め物、海鮮汁ビーフンなどが次から次ぎへと運び込まれた。大シャコは普通のシャコ同様、殻と身が離れにくく食べにくいが、エビとシャコの中間ぐらいの味で美味しかった。大味とされるニシキエビもなかなかどうして、噂よりかは悪くない味だ。
 あれこれ美味しいシーフードを食べていたところに、とうとうカブトガニBBQが運ばれてきた。厨房から出て来て我々のテーブルに着くまでの間、他の客(主に欧米人観光客)の目はカブトガニに釘付で、どこのテーブルに運ばれるのか興味津々にカブトガニBBQを目で追っていた。テーブルに置かれた後も周りからの視線は痛いほど感じた。我々がどんな顔をしてカブトガニを食べるかその反応が気になるのだろう。

6.天然記念物の味
カブトガニBBQ.
カブトガニを囓るも、歯が立たず。(注、これでは食べ方が違います)
 カブトガニはひっくり返されて蒸し焼きにされていた。カブトのヘリから中にかけてカニミソ(正確にはカブトガニミソ?)がベットリとへばりついている。カニミソの下にはパチンコ玉より小さいくらいの卵がぎっしりつまっていた。生きているときにワラワラと動いていた複数の足は外されていて、いわゆる「肉」はしっぽの付け根に少々付いているだけだった。どうやら、カブトガニは普通のカニ、エビのように肉を喰うのでなく卵を食べるものらしい。
日本なら天然記念物として手厚く保護されるはずのカブトガニであるが、見た目ほどその味はオドロオドロしいものではなかった。臭みを消すためだろうか、酒を大量にふって調理してあるようで、少々酒臭い感はあったが、普通のカニのカニミソや卵の味と非常に似ている。目をつぶって食べれば普通のカニミソやカニの卵と間違える人もいるかもしれない。うーん、まずまず美味しいではないか!
 ただし、黒灰色の外骨格と緑灰色の内臓を持つ節足動物は、やはりその見た目が悪い。恐竜の時代から同じ格好をかたくなに守り続けてきたような頑固者の生きた化石である。その内臓や卵を食べている訳であるから、いくら美味しくても視覚的マイナス要因は大きい。

7.マレーシア人は食べない?中国人は食べる?
 文献(注7)によるとマレーシア人はカブトガニを食べないそうだ。注文を取っていたオバチャンにカブトガニの味を聞いたときに歯切れの悪い答えだったのは、そのためだったのだろうか。お隣のタイではカブトガニを食べるので、マレーシアの漁師がカブトガニを捕ってもタイの業者に売ってしまうそうだ。また、別の文献(注8)によると、タイの市場にカブトガニの卵だけを別に売られていることもあるそうだ。同じ文献によると中国でも台湾や福建省でもカブトガニは「ホウ」(注9)と呼ばれ、蒸したり焼いたりして食べるとのことである。

8.もう沢山
 さて、一緒にシーフード三昧していた妻はというと、カブトガニは一口食べただけで、ピリ辛ニシキエビや海鮮汁ビーフンばかり食べている。もともとカニミソがそんなに好きではないこともあり、カブトガニ「もう沢山」なのだそうだ。
 カブトの長径が40cmを越えていたと思う。そんなカブトガニの腹にびっしり詰まったミソと卵を、結局、ほとんど1人で食べることになってしまった。普通のカニのカニミソでもそんなには食べられるものではない。私も妻に続いて、カブトガニは「もう沢山」と思うようになってしまった。



注1 カンクン: 学名Ipomoea aquatica ヨウサイとも呼ばれるヒルガオ科の野菜。茎の心が空洞なので中国では空心菜とも。東南アジアで広くみられ、クセが無く炒め物に最適。
注2 テレビ番組: 私の大好きな番組、朝日放送「探偵!ナイトスクープ」で、ガラスを割るシャコがいることを信じてもらえない男が、その事実を証明するというお話をやっていた。TBS「どうぶつ奇想天外」でもやってたかな。
注3 ニシキエビ: 学名 Panulirus ornatus 間違えても「ニシキヘビ」ではない。でも、ニシキヘビはでかいから食べがいがあるだろうなぁ。
注4 独特の体型: ガミラス帝国を破った宇宙戦艦ヤマトの前に立ちはだかった第二の敵、白色彗星軍の戦闘機がカブトガニ型だった。
注5 カブトガニ: 節足動物、剣尾目カブトガニ科に属する。日本や台湾に生息するのはカブトガニ(Tachypleus tridentatus)、東南アジアにはミナミカブトガニ(T. gigas)、マルオカブトガニ(T. rotundicaudatus )が生息する。我々が食べたのはどっちだろうか?
注6 捕って喰うほど: フロリダ在住の知人(日本唯一のプロマラソンスイミング選手松崎氏に聞いたところによると、アメリカ、ニューヨークはロングアイランドの海岸ではハリケーンの翌日には大量のカブトガニが打ち上げられるのだそうだ。食べる人はいないとのこと。
注7 文献: 根津清著、ダイヤモンド社刊、「東南アジア丸かじり!」
注8 別の文献: 周達生著、平凡社刊「中国食探検」
注9 ホウ: 漢字は...「學」から「子」を抜いた物(つまり冠の部分)の下に「魚」を入れた漢字

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