第6話 「フルーティーなカカオ」
(写真にマウスを当てますと簡単な説明が出てきます。)

 Noel Nkro村はコートジボアールの首都ヤムスクロ近郊にある集落である。隣国ブルキナファソから移住してきた村長が一族郎党約200人と共にカカオ、オレンジ、キャッサバ、バナナ、コーヒー、トウモロコシ、イネなどを栽培して生活しているとのことである。この村長さんは、収穫した農作物の出荷時期を市況によって調整するという、ちょっとした方法で成功を収めた人物なのだそうだ。農村部での人々の生活状況を調査するためにこの村を訪れた我々調査団(注1)はこの村長の歓迎を受け、村の広場にある大きな木の下で椰子酒(ヤシの樹液を発酵させて造った酒)をごちそうになった。ポリタンクから注がれた椰子酒は白ワインに似た味だったが、少し酸っぱかった。
 そんな歓迎の席で通訳の誰かが私を農業の専門家と紹介したためであろうか、村の子供達がワイワイと集まってきて、まるで「これは俺たちが作ったんだぜ!すごいだろう」といわんばかりに、いろいろな農作物を見せてくれた。きれいな薄緑色で肉厚のトウガラシ、まだ青いバナナ、黄色く熟れたカカオの実などをどんどん手渡してくれたので、瞬く間に私の両手は農産物で一杯になった。ちなみに、青いバナナは調理用の甘くないプランティンバナナで、この翌日、とある場所で厨房をお借りしてフライドバナナにして頂いた。フライドポテトの様な食感でとても美味しかった。
カカオの木。カカオは木の幹から直接実がなる。(コートジボアールにて)
カカオ畑は日本の果樹園の様なイメージではなく、雑木林に様だ(コートジボアールにて)
カカオの実を割ったところ。白い果肉に包まれた種が詰まっている。(コートジボアールにて)
 さて、子供達が手渡してくれた農作物の中に黄色く熟れたカカオの実もあったのだが、子供達はカカオの実を指さして、しきりに「食べると美味しいよ!」という感じのジェスチャーをしていた。さらにそれは「今すぐ試してみろ」と言っているようにも見えた。確かにカカオから作られるチョコレートやココアが美味なのはわかるけど、加工前のカカオをそのままで食べることはできないだろう・・・・とその時は思っていた。
 カカオの花は木の幹から直接咲く「幹生花」であり、果実も木の幹に直接ぶら下がってなることから、少々風変わりな姿の植物である。この果実の中の種を発酵させ、炒ってからすり潰したものがチョコレートの原料になるそうだ。子供達に手渡されたカカオの実を割ってみると、分厚い皮のなかにいくつかの種が白い果肉に包まれて詰まっていた。ようするに、先ほどの子供達のジェスチャーはこの白い果肉が美味しいんだよということを言いたかったようだ。一つつまんで食べてみると確かにこの果肉は「若干酸味の少ないマンゴスチン」といった感じでとても美味しかった。ただ、可食部であるこの果肉がとても少なく、種の周りにまとわりついている程度しかないのが残念なところだ。しかし、果肉が少ないとはいえ、チョコレートからは全く想像がつかないフルーティーな味には驚いた。カカオの実が美味しいということを教えてくれた子供達に感謝である。
 日本で「世界一のカカオの生産国はどこだと思う?」と質問すると、ほとんどの人が「ガーナ」と答えるだろう(実際に学生で試してみたらそうだった)。これは発売から40年の歴史を誇るロッテのガーナチョコレートの影響であることは言うまでもない。実際に日本に輸入されるカカオはガーナからのものが最も多いそうだが、実はガーナのカカオ生産量は世界第二位なのである。では、本当の世界一のカカオ生産国はどこかといえば、ガーナの隣国であり、私たちが今回の調査団で訪問したコートジボアールなのだそうだ。以下は人から聞いた話であるが、コートジボアール人のカカオを扱う商社マンが嘆き呟いて言うには「日本は大きなマーケットなのだけど、何故かカカオはガーナ産でないとダメだといって、コートジボアール産は買ってくれないんだよな。」なのだそうだ。これも同社同製品の40年の歴史のなせるわざなのか(注2)?

注1:途上国を対象とした実情調査(1998年、日本財団が組織・派遣)
注2:ロッテのホームページによるとカカオの生産量はコートジボアールが一番であるが品質ではガーナが一番とのこと。


 食の科学(2003年6月号)掲載分

 Carlosの喰いしごき調査委員会